
2人の王と天童市
将棋ブームを生みだした羽生善治九段と
藤井聡太棋王の伝説や、
天童市との関わりをご紹介します
吉本芸人によるYoutube将棋チャンネルが開設されたり、大河ドラマの将棋シーンが注目されたり、将棋×法律ドラマが話題になったり等など、最近では将棋を指さない方々にとっても、将棋がより日常的なゲームになり『指す将』『見る将』なる言葉まで使われるようになっています。
これらの根底には、2人の棋士が生みだした将棋ブームがあります。
羽生善治九段と藤井聡太竜王・名人。将棋界の未来を担われていく2人のトップ棋士の伝説と天童市との関わりをご紹介します。

羽生善治 九段(永世称号有資格者)
※段位:2025年3月現在
羽生善治九段の将棋ブーム伝説
1996年に史上初めて7大タイトル(竜王・名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖)の全てを同時独占し、将棋ブームを巻き起こした羽生九段。
瞬く間に将棋界のスターの域を超え知的シンボルの象徴となった羽生九段は、その社会現象を受け、テレビ出演に始まり、地方でのイベント出演にCM出演、一般紙でのインタビューや対談、若者向けカルチャー誌にコラムを連載する等など、将棋のために将棋人口が増えることを願っての活動を展開しました。
このような羽生九段の活躍により、それまで将棋に関心を持たなかった若年層や女性のファンが急増。その結果、ライブで楽しみたいと将棋大会に足を運ぶファンが増え、タイトル戦のほとんどで対局を棋士が開設する大盤解説会が開かれるようになりました。
羽生善治九段と天童市の関わり
天童市には将棋大会等で何度も足を運ばれている羽生九段ですが、毛筆で文字を書「揮毫(きごう)」をされた際の2024年のエピソードを2つご紹介します。
第37回アマチュア竜王戦全国大会の開会式に出席された際、羽生九段は『地域振興に貢献したい』という所信に基づき、市内のさくらんぼ農家に出向き、さくらんぼの被り物をしながら天童市の果実を紹介してくださいました。
その際に、ファンの方の間では有名な言葉である美しく照り輝くさまを表す「玲瓏(れいろう)」を揮毫され、残されました。
また、天童市で市制施行65周年を記念する将棋のモニュメントがつくられた際、新たなシンボルに文字を記されたのが羽生九段でした。
このモニュメントは将棋の駒3枚を組み合わせたデザインで、それぞれの面に「王将」「将棋のまち天童」「克己復礼」という言葉を揮毫されました。
「克己復礼」 とは、『礼儀を重んじ、己に打ち勝つ』という意味で、将棋の精神を表現しています。これは羽生九段による将棋を指す全ての人々へのメッセージでした。
『モニュメントになるということでやや気恥ずかしいところもあるが、天童市を訪れる人々がこの場所で将棋の深さと歴史を感じ取れることを願っている」と語られた羽生九段。
このモニュメントは、まさに天童市が将棋の聖地であることを、訪れた人々に強く印象づける象徴になることでしょう。
藤井聡太竜王・名人(王位・王座・棋王・王将・棋聖)
※段位:2025年3月現在
藤井聡太竜王・名人の将棋ブーム伝説
2017年は史上最年少・14歳のプロ棋士、藤井聡太竜王・名人が公式戦29連勝の最多記録を達成。 30年ぶりに連勝記録を更新したことから将棋ブームが再燃しました。
羽生九段とのブームの違いは、将棋と関連アイテムが様々な形で普及した点にあります。
将棋用品や関連書籍の売り上げが伸びた他、インターネットテレビが専門チャンネルを開設し、スマートフォン向けのゲームはダウンロード数が増加。対局時の藤井聡太竜王・名人の食事やおやつまでもが注目され、売り切れが続出しました。
この驚異的な人気を受け、2018年のバレンタイン時には日本将棋連盟関西本部が藤井聡太竜王・名人へのチョコレートの直接手渡しを禁止し、事前に関西将棋会館まで送付するようファンに通達しました。
これにより『棋士宛のチョコは連盟に送付すればよい」』ことが将棋ファンに周知され、他の棋士にも連盟経由でチョコレートが届くようになりました。
藤井聡太竜王・名人と天童市の関わり
藤井聡太竜王・名人が初めて天童市を来訪されたのは2022年4月。コロナ禍で3年ぶりに開催された「第67回 天童桜まつり 人間将棋」にゲスト棋士として参加されたことでした。
豊臣秀吉が始めたともいわれる「人間将棋」。約15×17mの巨大な将棋盤上で、武者や腰元に扮した40人の男女高校生が、2人の棋士の指した手に合わせて動きます。この棋士を、東軍は青い陣羽織の武者装束で佐々木大地七段が、西軍を赤い陣羽織の武者装束で藤井聡太竜王・名人が、それぞれつとめられることになったのです。
「人間将棋」のゲストは日程上、名人戦挑戦権に該当しない棋士とされるため、当時五段だった藤井聡太竜王・名人の参加は最初で最後かもしれないといわれ、事前抽選制の観覧席・約1,200席には全国から約12,000名もの応募が殺到しました。
この「人間将棋」の魅力は、人が動く姿もさることながら、棋士が指しながら武者言葉で掛け合う点にもあります。
『本日は天童にお招きいただき、大変うれしゅうござる。佐々木殿と師匠の深浦殿には、公式戦でよく痛い目にあわされておるので、今日はその借りを返す絶好の機会じゃ。全軍を躍動させて勝利を目指したい。いざ、尋常に勝負でござる!』。藤井聡太竜王・名人の対局開始時の武者言葉の挨拶は、会場やネット生放送を鑑賞中の観衆を大いに沸かせました。
「人間将棋」には全ての駒を動かすという特別ルールがあるため、2人の棋士は勝手の違いに苦労されながらも武者言葉で笑いを誘いつつ、対局を進行。最終的には130手で藤井聡太竜王・名人が勝利されました。
対局後、『桜も満開で天気もよく、いい経験だった。次はタイトル戦で来たい』と語られた藤井聡太竜王・名人。
実際には2回目の天童市来訪は、2024年の「第37回アマチュア竜王戦全国大会」の審判長としてでした。
3回目、4回目の天童市への来訪がどのような形になるか、『指す将』『見る将』、そして天童市民が心待ちにしています。